皆さんは、歯の役割とは何だと思いますか。
大きく分けると三つの役割が考えられます。
まず第一に、咀嚼(そしゃく)、つまり噛(か)むことを挙げる方が多いと思います。口は最初の消化器官で食べ物を入れた後、歯でそれを噛み砕いたり、すりつぶしたりして胃腸での消化吸収を助けます。
野生動物は歯がなくなるとすぐに死んでしまうそうです。食べ物がとれなくなるわけですから当然です。
人は、歯をなくしても点滴や胃瘻(いろう)など生命を維持する方法がありますが、口から栄養を補給できなくなると、やはり体力や生きる気力は急速に衰えてくるのが普通です。
まさに「歯は命」なのです。
次に歯の役割として考えられることは発音です。前歯を失うと空気が漏れて、明瞭な発音ができなくなります。歯があっても、出っ歯や受け口ではやはり同じように正しく発音するのが困難になります。
最後に挙げられるのは、見た目です。人は見た目で判断されることがあるのは事実だと思いますし、皆さんも第一印象の大切さを実感した経験が何度もあるのではないでしょうか。
歯がデコボコであること以外にも出っ歯や受け口では、人に与える印象が大きく変わります。
職業柄、企業の不祥事でお詫(わ)びの会見の際、気になることがあります。時々当事者が笑っているように見えることです。本人にその気はなくとも、歯が出ているために、話す時に必要以上に歯が見えてしまい、笑っているような印象を人に与えてしまうのです。お詫びや悲しい場面で、本人の意思に反して、そのようなことが起こってしまうのは不幸なことです。
そのほかにも歯の咬(か)み合わせによって、体のバランスを取るなどの役割もありますが、前述した3点が一般的には歯の主な役割だと思います。
そこでこれらの問題を一挙に解決できればよいと思いませんか。それを実現する手段の一つが矯正治療です。
皆さんも周りで矯正装置をつけている人を見かけたことや、久しぶりに会った人の顔立ちが変わっていて驚いた経験はありませんか。
今回から5回にわたって、矯正治療についてお話させていただく予定です。
矯正治療と言っても子供の矯正と大人の矯正、出っ歯や受け口などの不正咬合(ふせいこうごう)の分類による違い、また使用する装置のタイプによる違いなど、さまざまな話の切り口が考えられます。
5回という限られた掲載ですので、子供を対象にした早期治療と成人を対象にした外科矯正にしぼって、それぞれ前者は、子供の時にしかできない治療法やその意義、後者は、重篤な骨格的問題を持っている患者さんに対しての治療法を中心に、分かりやすく解説することを心がけますので、ご期待ください。
第2回 早期矯正治療−受け口と出っ歯− |